9月4日に総務省,経済産業省,法務省の連名により,「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」という文書が出された。この中で,「立会人型の電子契約サービス」については,「技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されているものであり、かつサービス提供事業者が電子文書に行った措置について付随情報を含めて全体を1つの措置と捉え直すことによって、当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、同法第2条第1項に規定する電子署名に該当すると考えられる」と述べて,有効性を認める見解を示している。
問題となるのが,「サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく」という点であろう。果たして,そのような仕組みが現実的に可能なのか,甚だ疑問である。サービス提供事業者は,その意に反するような電子文書の作成を許容するであろうか? 例えば,お金を払わない利用者のアカウントを停止するようなことは,通常の事業者であれば容易に想像がつく。ある文書には電子署名をするけれども,別の文書には電子署名をしないということは非常に簡単であるし,逆に言うと,それができないようにすることは極めて難しい。
「十分な水準の固有性を満たしていると認められるためには、①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があると考えられる」という部分の①について,「利用者」が1者のみではない(実際にはそのようなケースの方が多いと考えられる)場合が問題となる。AとBとがこのようなサービスを用いて電子契約をする場合,Aがサービス提供事業者とサービスの提供を受ける契約を結び利用料を支払うとする。AとBとが電子契約を締結する場合,サービス提供事業者とBとの間には契約関係がないか,あっても,無償の契約である。この場合,サービス提供事業者の提供するサービスにはAとBとの間で違いが生じるであろう。これは公平性という点で極めて問題であると言える。サービス提供事業者は,利用料を支払っている利用者に便宜を図ると考えるのが自然である。
第3の問題として,「利用者が2要素による認証を受けなければ措置を行うことができない仕組みが備わっているような場合には、十分な水準の固有性が満たされていると認められ得ると考えられる」という部分について,MFA(多要素認証)を過剰評価していないであろうか。特に組織内においては,共有のメールアドレスを使用する,情報システムのパスワードを使いまわす,多要素認証のトークンを共有している,などのケースは多いと思われる。個人間の認証においてはMFAはある程度有効と考えられるが,組織においては使いまわしが横行している現状を考えると十分な固有性が満たされているとは言えないだろう。
いずれにしても,本来は利用者自身の秘密鍵を用いて電子署名をすべきところを,サービス提供者の秘密鍵で電子署名をするように変更し,利用者の認証はパスワードとトークンなどのようなより弱いものになってしまっている点において,本来の電子署名よりは脆弱なものと評価せざるを得ない。